第4話 元社畜、新ヒロイン(同居人)に萌える

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第4話 元社畜、新ヒロイン(同居人)に萌える

「先輩、待ってくださいよ!」  おっと、思わず早足になっていたようだ。淳は背が低いせいか、歩くのが遅い。 「しかしどうしたもんかな……有線回線でもダメとはな」  歩くスピードを淳に合わせる。 「5Gでは100メートルくらいしか届かなかったからって、今回むっちゃ経費かけて有線を引いたんですよね」 「無線通信よりましだとはいえ、500メートルで減衰率98%とはな。このままだと中継器でいくら増幅しても皇宮(セントラル)まで伸ばしたら32kbpsくらいか? なんだこれは? 俺にテレホマンになれというのか!」 「先輩、古いっす……」  淳は笑ってくれるが、これは由々しき事態である。世界トップクラスの技術力を持つN電工の光ファイバーケーブルを使い、ツキア皇国との間に高速インターネット回線を敷設、アニメ、ゲームをはじめとした日本の誇る強力なコンテンツを輸出し、シルヴェスターランドのデジタル化を主導することで5年後には35万人の雇用と2兆円の経済効果を……  というお役人にありがちなガバガバ試算はともかく、それに乗っかった日本の大手IT企業はこぞってツキア皇国に進出したのだが、これでは何もできないではないか。 「そもそも俺達の共同研究者が素材屋というのはどういう事なんだ? 素材研究なら夕日化成の奴らがメインだろう?」 「……マルティナちゃん、魔導素材工学や錬金術が専門とか言ってましたね。大方、部長あたりがコンペでミスったんじゃないっすかー?」 「あり得るな……くそ、あの部長(ハゲ)め、今度残り少ない奴の毛を毟ってやる」 「ひどい……あ、先輩、着きましたよ」  外れ案件を引いてくることに定評があるウチの腐れ部長を100回ぐらい脳内で地獄に落としていると「ゲート」に着いたようだ。  明るい白色の土壁に木組みの窓。窓枠には住人が育てたのであろう、色とりどりの花が飾られている。緩やかに続く石畳の向こうには青い海と、たくさんの機帆船が出入りする港湾施設が見える。そんなファンタジーRPG感満載の風景の中に突然現れる現代的な自動ドアを持つ建物。ここがツキア皇国と日本を結ぶ「ゲート」だ。  ドアを通り、愛想のない入出国管理官(皇国人でネコミミ種族。ここだけだとイメ〇ラに見える)にスタンプをもらえば出国手続き完了だ。  そのままもう一つのドアを抜け、30メートルくらい歩くと少し空気が変わったのを感じる。ここはもう「日本」となる。何やら大気の比重が違い、このような形で大丈夫という事だが、風情も何もあったものではない。もっともらしく転移陣くらい出せないのだろうか。  突き当りを右に曲がると、形だけの入国審査場、そこを過ぎると地下鉄の駅だ。ICカードを取り出し、改札を抜ける。 「いつものことながら、一瞬で日常ですよね」  ここは「ゲート」の専用駅、限られた人間しか乗降しないとはいえ、やってきた地下鉄に乗ってしまえば、何の変哲もない通勤風景だ。 「まあ、通勤が楽というのは結構なことだ」  地下鉄は長大トンネルを抜け、地上に出る。到着した駅は緑豊かな山上の駅。俺は都心にも近いこの街を気に入っていた。 「お疲れ、また明日な」 「お疲れっすー」  改札を出て、家路を急ぐ。俺の住んでいるマンションは駅の近くだ。  少しおしゃれな外観のメゾネットタイプのマンション。間取りは2LDK。一人暮らしには少し持て余しそうな部屋を借りているのには訳がある。 「ん、お帰り。兄さん」  帰ったよ、とメッセージアプリに連絡すると、一人の女の子が窓を開け、俺に挨拶してくれる。  腰まである、さらさらストレートのプラチナブロンド。透き通る白い肌にあどけなさの残る青い瞳。  小さな桜色の唇はとても柔らかそうだ。  ウム、これが正統派美少女というものだ。どこぞのオモシロ誘爆魔導士とは違うのである。  彼女の名前は加賀 遥(かが はるか)  俺の最愛の同居人だ。
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