第5話 天才電脳少女(同居人)、神アイテムを元社畜に授ける

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第5話 天才電脳少女(同居人)、神アイテムを元社畜に授ける

  カードキーを開けると、遥が駆け寄って迎えてくれる。  今日もとてもかわいらしい。仕事の悩みとかどうでもよくなる。  なに? お巡りさんここに犯罪者がいます、だと? ふん、残念だったな、彼女は俺の従姉妹だ。  俺の伯母さん(遥の母親)は有名なマッド…研究者で、今はイギリスの大学にいる。  数年はかかる長期研究らしく、俺が遥を預かっているというわけだ。  大学時代、伯母さんの家に下宿していた俺は、研究で忙しい伯母さんに代わって遥の世話をしたものだ。おむつだって替えていたのだ。  今更、邪な気持ちなど抱くはずはあるまい。いやむしろ、悪い虫が近づいたら抹殺してやる。 「ね、兄さん……出来たの…」  頬を染めながら、遥が嬉しそうに報告してくる。 「!? なん…だと…いつの間にお前、大人になったのだ…」 「……そうやってナチュラルにセクハラするから、兄さんはずっと素人○○なんだよw」  目を見開き、愕然とする俺。間髪入れず遥の可憐な唇から罵声が投げつけられる。  ……良い。やはりこうでなくてはな。思わず恍惚とする。 「もう、わかってるんでしょ。出来たのは新しいファームウェア。こっち、見て」  俺の手を引くと、小型の端末を手渡してくれる。  普通のスマホくらいのサイズだろうか、1センチくらいの厚みがある青みがかった半透明のシリコンボード。 「これは? ただの板に見えるが?」 「サニーが作った最新の高性能圧電素子。これはね、内蔵している超小型記憶チップにファームウェアを組み込めるの」  遥がボードの端を指で数回触ると、鮮やかな画像が映し出された。 「数マイクロアンペアの電力で動作する超省電力ファームウェア。アンドロイドも動くから、wetubeも見れるよ」 「おお……すごいな、さすが遥だ」  こう見えて遥は天才プログラマーだ。通常のプログラムだけではなく、電子機器の制御を行うファームウェア(基本ソフト)を1から作り上げることもできてしまう。  聞こえる音がすべて音符になる、絶対音感という能力があるが、遥の場合は、見たものすべてをプログラム言語に変換できる能力がある。そんな彼女は電子の魔法使い(ウィザード)と呼ばれている。  まだまだかわいい盛りの女の子。その能力を利用しようとする汚い大人の世界に触れさせたくないので、なるべく有名になってしまわないように気を付けているが……見たものすべてをプログラム化できるという事は、にじみ出る俺の大人の魅力を完全に電子化できるという事だろうか。ふむ、まいったな、ついに俺もMe-tuberデビューか。  稼いだ金で美脚のJK100人に踏んでもらうことも可能だろう……おお!? これは良いぞ!  ―――ビコン!  手に持ったシリコンボードからアラーム音がし、『Now calling☆』と赤文字が浮かぶ。これは? 「……兄さんが不埒な妄想をしているときの、眉と口の角度は分析済み。ちなみに自動でポリスメンに通報されるから」  なんだと!? さすがは遥だがここで俺が逮捕されてしまえば彼女を一人にしてしまうことに……!  俺が欲望と責任感のはざまで葛藤していると、ふっと遥が表情を緩める。 「……ふふ、冗談。通報したのは近所の洋食屋さん。おいしいハンバーグが届くから、一緒に食べよ?」  ……俺はこのかわいい従姉妹に一生勝てそうにない。 *** *** 「このサイズ、軽さでスマホ並みの性能とはな……」  夕食後、リビングで俺は遥が作った小型端末に、あらためて驚愕していた。サニーの高性能圧電素子といえば、少しの圧力を加えることで効率の良い発電ができるようになった、と聞いたことがある。とはいえ、所詮はこのサイズの端末だ。発電される電力は微々たるもののはず。それでここまでのアプリを動かすとは……  ―――ん? そういえばシルヴェスターランドで光回線が遅くなったり、電子機器が使えないのは送電経路で電力が減衰するからで――― 「……使えるかもしれない」 「ん……どうしたの? 兄さん」  思わずつぶやいた俺を、不思議そうに見る遥。 「なあ、こいつを貸してもらっていいか?あちらで試したいことがあるんだ」 「ふふ、もちろん、いいよ。兄さんの役に立てたら、うれしい」  嬉しげに微笑む遥の頭を撫でながら、浮かんだアイディアを吟味する。  これは、行けそうだ。
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