第6話 元社畜、起死回生のアイディアを思いつく(前編)

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第6話 元社畜、起死回生のアイディアを思いつく(前編)

  翌朝、遥の作ってくれたクラムチャウダーを堪能してから家を出た。  いつものように、地下鉄の駅で淳と合流する。 「……というわけなんだ。どう思う?」  ゲートをくぐり、職場に向かいながら、遥から借りた小型端末について、淳と話す。 「……なるほど! それはいいアイディアかもしれませんね。あ、ちょっと先輩、それ貸してください」 「ん?別に構わんが……気づいたことがあるのか?」  俺は小型端末をスマホケースから取り出すと、淳に手渡す。 「こちらで電子機器が使えないのは、先輩の言うとおり、送電経路で電力が失われることが原因ですからね。同じように、電池やバッテリーも化学反応が阻害されるのか、じゅうぶんには使えない。ただ、こいつは化学反応じゃないですから、ほら」  淳が端末の端を数回押さえると、電子音とともにスリープ状態になっていたアプリが起動する。 「……使えちゃうみたいですね。ほんとすごいですよ、これ。」 「……ん?これは……」  どうした? なにか気付いたのだろうか、淳が首をかしげる。 「……ああああ! このぬくもりと香り、遥ちゃんを感じるぅぅぅ!」 「……ふんっ!」 「ふぐえっ!」  いきなり小型端末に頬ずりし、臭いを嗅ぎ始めた変態野郎を、上段回し蹴りで容赦なく吹き飛ばす。  コイツは一見常識人だが、ロリコンだ。ロリコンは人類の敵である。よろしい、シベリア送りだ。粛清するしかあるまい。 「……ひどいっすよ先輩! 本当の変態は舐めるんですよ、分かってます!? 僕は紳士的に臭いを嗅いだだけなのに!」  ふらふらと立ち上がった淳が、涙目で抗議してくる。馬鹿め。お前の行動は予測済みだ。俺は心底さげすんだ口調で奴に吐き捨てる。 「遥のぬくもりと香りだと? 甘いな淳。暖かいのはさっきから俺の股間ポケットに入れていたからだし、香りはただのエイ〇フォーだ」 「ひどい……! というか、そちらの方が変態ですよぉ……」  今度こそ絶望に沈む変態野郎。  ……まあ、いつもの朝の風景である。  俺たちはオフィスを開錠すると、自席につく。  俺はノートPCを立ち上げると、昨日思いついたアイディアを資料にしていく(パワポだ)  資料の形式とか何でもいいのではと思うが、おじさん世代はパワポが好きなので仕方ない。プレゼンでそれっぽいことをいうのは俺の得意技だ。 「……あー、やっぱりこっちも暑いですね……」  淳がオフィスのエアコンの電源を入れる。  俺たちが住んでいる街も、こちら(皇国首都だ)も今は夏真っ盛り。加えて港町なので湿度も高い。 「おい、温度設定は28度から下げるなよ」 「……はーい」  俺は別にクールビズを気取る環境保護主義者(エコロジスト)ではない。この建物には、俺たちの世界から有線で電気を送っているのだが、昨日話したように距離による減衰に対応する為、とんでもない大容量で送電している……らしい。経理の連中が電力会社から100万円の請求が来たと騒いでいたが……  正直俺には興味のないことだが、電気を無駄遣いすると、経理のおばちゃんの機嫌が悪くなる。経理のおばちゃんと仲良くしておくのは、できるサラリーマンの必須スキルだ。  出張した際にはお土産を用意することも欠かさない。  さて……俺は机上の電話を取り上げる。 「あれ? マルティナちゃんを呼ぶんすか?」 「ああ。 せっかく見つけた手がかりだ。早く試してみたい」  電話、とはいうもののこれは俺たちの世界の「電話」ではない。風の魔法力?とやらで離れた場所との通話を可能にする魔導具(マジックアイテム)らしい。  どう見ても、俺の会社にあった内線電話の形をしているのは、マルティナ流のジョークなのだろうか。 「はい、こちらローウェル皇立学院魔導素材工学研究室です。どのようなご用件でしょうか?」  ワンコール以内にマルティナが出る。電話対応、100点。 「こちら赤城 直也だ。少し相談したいことがある。ウチのオフィスまで来てくれないか?」 「……なんだ、ナオヤなのね。丁寧な対応をして損しちゃったじゃない」  相手が俺がと分かった途端、素に戻るマルティナ。20点。 「…なによ20点て? わかったわ、すぐ行くわね。まってなさい! ついでに昨日の夜にできた新たな魔導素材を」 「いや、いらん」  ガチャ。また意味の分からないモノを持ってこられても困るので電話をガチャ切りする。
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