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第7話 元社畜、起死回生のアイディアを思いつく(後編)
それからきっかり5分後、少しむくれながらマルティナがやってきた。先ほどの対応が不満らしい。
「……むーー、せっかくトッピングのトンカツをイカフライに変えてくれる魔導大皿を作ったのに。これは物質の組成を組み替えてしまう、とても高度な魔法技術なのよ? 遺失魔法を応用した、まさに人類の夢といっても過言ではないわ!」
……話を聞く限り、すさまじい技術だと思うが(まさに「魔法」だ)、なんでこいつは応用力が壊滅的なのだろうか?
思わず頭痛を感じてこめかみを押さえていると、淳も全く同じリアクションを取っていた。
「……あのな、マルティナ。お前がカツカレーが食べたくてゴーゴ〇カレーを訪れたとしよう。しかもめったに来れない金沢本店だ。興奮を抑えきれないお前の、目の前に置かれたカレーのトッピングがイカフライになってしまった。お前は許せるのか?」
「!?……!?!!」
このお馬鹿さんめ。お前はなんてことをしてしまったんだ。諭すような俺の言葉に、マルティナの背後に電流が走る(というか物理的に電撃が走った。髪の毛が逆立っている。魔法使いも大変だ)
「……なんてこと、わたしが愚かだったのね……そこに気づかないとは……わかったわ! すぐにチキンカツになるように改良を」
「違う、そうじゃない!」
「あう!」
全然わかっていないマルティナに、思わずノーウェイトで突っ込みを入れてしまう。関西人の血が流れているものでな。許せ。
「うーー! なによ、痛いじゃない!」
思わずつんのめったマルティナの制服の胸ポケットから、半透明の鏡のようなものがポトリと落ちる。遥が作った小型端末くらいの大きさ。(つまりスマホぐらいだ)四隅に小さな宝石のようなものが埋め込まれており、僅かに七色に点滅している。これはなんだ?
「ちょっと、聞いているのナオヤ! 暴力反対!」
「ゴー〇ーカレーの株主優待券をやるから、俺の話を聞け。これはなんだ?」
なおも言い寄るマルティナを手で制し、マルティナが落とした端末?を拾う。
「ほんと!? やっぱりナオヤっていいひとよね!」
「えーと、それはね……」
すぐに機嫌を直すマルティナ。馬鹿め。ゴーゴー〇レーは株式上場していないので、優待券などあるわけないのだ。おっと、話がそれた。
「魔導鏡っていうマジックアイテムなの」
「魔導鏡?」
「そう。少し難しい理論なんだけど、光と闇の魔法力の位相差を利用して魔導波を送信。2つの魔導鏡にお互いの顔を映すことができるの」
なんと! 映像に対応した情報通信機器があったとは。俺達も使っている電話もどきしかないと思っていた。
「それはなかなか便利な道具じゃないか。その割に、使っているところを見ないが……」
俺たちがここに赴任して3か月。皇都に繰り出したこともあるし、祭りを見物に行ったこともある。こんな便利な道具があるなら、だれも使っていないという事は考えづらいが……
「うーん、そうなんだけど。風の魔法力は光・闇と相性が悪くて、声を送れないのよね。通話アイテムの方が手軽だし、なにより転移魔法の発達で廃れちゃったの」
……音声を送れないのか。意思疎通のために、手話やパントマイムをするのは確かに効率が悪い。あと、転移魔法か。俺がこちらに来て、一番驚いたのがこの転移魔法だ。転移できる場所の登録に制限はあるものの(ルーラみたいなものだ)一瞬で移動できるなら、確かに廃れるのも仕方ない。
「この魔導鏡とやらは、映像を送ることができるんだな?」
「そうね、この四隅のクリスタルが鏡に映る影によって発生する、エーテル密度の差を検知してルーベンス第2波動方程式で魔導波に変換……」
研究オタクらしく、なおも難しい魔導方程式とやらを語り続けるマルティナをいったん放置して俺は考える。映像を送る理論が確立しているのなら、VoIPプロトコルで音声を同じく魔導波とやらに変換、データの圧縮はこちらの技術を使えば…いや、どうやってこちらのプログラムを動かす?
そうか、遥の作ってくれたこれを使えば……
「いやー、似た者同士なんだからこのふたり……」
ぶつぶつと自分の理論に没頭する直也とマルティナ。
「ほらほら、おふたりさん。このままじゃ日が暮れるっすよ!」
はっ……! 俺は我に返ると、遥から借りた小型端末を取り出す(まだ少し生暖かい)
「おいマルティナ、これを見てくれないか。こちらの技術で作った道具なんだが」
「最終的にきのこ……はっ!? ナオヤ、なに?」
「(きのこ?)」
「これは圧電素子といって、圧力をかけると電力…お前たちの言う光の魔法力みたいなもの発生させる道具なんだ。電力を使えばこのように……」
俺は小型端末に圧力をかけ、アプリを起動する。たぬきのアバターが起動し、気の抜けた音声が流れる。
「! わわっ、すごいじゃない! これってナオヤたちの世界のデンシキキってやつよね!? このおっきな鏡みたいに、魔法力を線でつながないと動かないんじゃないの?」
おっきな鏡というのはノートPCのことだろうか?
「コイツは電力を自分たちで起こせる。つまり、どこへでも持ち運べるということだ。」
「さらに、電力があれば、俺達の世界の魔導……プログラムというんだが、それを使うことで音声を魔導波に変換できるはずだ。それとお前の魔導鏡を組み合わせれば……」
俺の言いたいことを理解してきたのか、マルティナの頬に赤みがさす。興奮しているようだ。
「なるほど、行けるかもしれないわ! 魔導波にさえ変換できれば、魔導鏡の間で通信できるはずよ!」
思った通りだ。これは使える! 頭の中のもやもやが晴れていくようだ。
「よし、今日はもう帰るぞ、フレックスだ! そうだな、今日は火曜日だから今週の金曜日までに必要な専門家を集めておけ!」
「俺も専門家を連れてくる。心当たりがあるんだ!」
「任せて! 私の友人に魔導波動工学の専門家がいるの!」
「ははは! これで次の成果報告会はもらったな!」
俺は高笑いするとフレックス申請(事後)を腐れ部長にメールでたたきつけ、職場を後にした。
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