第9話 天才電脳少女、異世界に降臨する

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第9話 天才電脳少女、異世界に降臨する

   3日後の金曜日、ようやく認可が下りた。今日は遥と出勤だ。せっかくの週末だし、むこうに泊まろうと思う。 「はるかー、準備できたか?」 「うん、大丈夫だよ兄さん、行こ。」  おお……今日の遥は、長い後ろ髪をハーフアップにしている。左側のもみあげだけを編んでいるのがアンシンメトリーでかわいい。  通っている私立中学校の制服(セーラー服だ)をきっちり着込み、薄手のタイツと、ピンク色のカワイイスニーカーを履いている。  遥はこう見えて寒がりなので、夏でもタイツを履くことが多い。生足派の俺としてはもどかしいのだが、たまの生足が映えるので悪くない……また、夏用の薄手タイツは、肌色が透けて見えて、こう、良いのだ。  脚フェチの諸兄には分かっていただけることであろう。 「また兄さんが不埒なことを考えてる……」  思わず妄想にふけっていると、遥がジト目だ。  いかんバレた……さて、出発するか。今日もいい天気だ。  地下鉄に乗り、ゲートの最寄り駅を目指す。 「……おおお……天使がいる……いいニオイがする」 d23bf49a-f522-41aa-9cd3-77a340c322bb 「……ああ兵庫県警さん、変質者がいます。不審者情報に登録を…っと」 「ちょっ! 先輩! 僕ですよ!」  淳が現れた。いかん、変態菌が移る。抗菌スプレーで丁寧に消毒する。 「ひどい!!」 「……じゅんさん、おはようございます」 「おっと遥ちゃん、おはよう! 今日も天使だね!」  いつものやり取りをしつつ、遥が淳に挨拶する。ちゃんとあいさつできるのはいい子の証拠だ。  淳もまあ、Yesロリコン Noタッチの節度は守っている。 「今日から遥ちゃん来れるんですね。いよいよプロジェクト本格始動っすか!」 「ああ。概要は大体伝えている。あとはマルティナが連れてくると言っていた、魔導波動工学?の技術者がいれば、実現できるだろう」 「もうファームウェアと、APIはほとんどできてるよ、ぶい」 「ほんとに!? こんなに天使で天才とか、ああ……世界の宝だなあ…」  かわいくVサインをする遥に淳が悶えている。同感だ。  俺たちはワイワイ話しながら、ゲートの最寄り駅で降り、ツキア皇国に入国する。  ***  ***  オフィスに入るとマルティナの研究室に電話し、呼び出しをかける。今日もエアコンは28度だ。 「……ここが兄さんたちの職場。普通だね。ダメージ床とか、落とし穴のボタンとかは無い?」 「……それは日本的な由緒正しい魔王城の設備だ。ここにはない」 「すこしがっかり……」  遥の魔法世界に関する知識が偏っているのは気になるが、なるほど、職場としての魔王城は危険がいっぱいだな。ご安全に!  とりとめのない雑談をしていると、扉がノックされる。マルティナ達が来たようだ。 「ナオヤ、ジュン、失礼するわ。こちらが私の友人の……」 「フム……」  今日のマルティナは、桃色の髪をツーサイドアップにしている。淡い光を放つ月形の髪留めが素敵だ。暑いのか夏用の半袖制服を着ている。これが正装らしく、マントを羽織っている。いつも通り、透き通る白い肌の脚線美、とてもよろしいのだが。  必要以上に主張するドヤ顔から、隠しきれないポンコツ感がにじみ出ていた。 「やはりなんだ、どうしてもポンコツ淫ピ感はぬぐえんな。ナース服着用コスプレオプション触手マシマシを希望する」 「開幕失礼!? よく分からないけど物凄く駄目なことを言われた気がする!」  ふっ……江戸時代から続く我が国の伝統であるハレンチオプションは異世界の民には理解できまい。 「はっはっはっ、気にするな、これも異文化コミュニケーションによるカルチャーギャップという奴だ」 「……そうなの? ひっじょーに気になるんですけど、特に触手」 「……申し訳ございません、そろそろよろしいでしょうか?」 「…………はっ!? 忘れていたわ。彼女が私の友人、優秀な魔導波動工学研究者よ!」  いつもの漫才を繰り広げるマルティナの背後から、遠慮がちに一人の少女が顔を出した。 「わたくし、ポーラ・スチュアートと申します。ツキア皇国ローウェル皇立学院で魔導波動工学を専攻しております。みなさま、よろしくお願い致しますね」  落ち着いた青色の髪を清潔感のあるショートカットにまとめている。少し下がった目尻からは落ち着いた知性が感じられる。ちなみにメガネっ娘だ。  マルティナと色違いの深緑の制服は、彼女によく似合っている。ひざ丈のスカートにショートソックス。黒のローファーという、鉄板スタイル。  背はマルティナより小さいものの、なにより豊かな曲線を描く胸周りが、落ち着いた少女という印象を与えていた。 (フム……) (おっぱいさんっす……) (わたしもこうなれるかな……でもママも小さかった(しょんぼり))  三者三葉の反応だが、目線は同じ部分を向いている。  その目線たちに気づかず、マルティナはいささか貧相な胸を張り、ドヤ顔で友人を紹介する。 「ポーラは幼年学校から一緒なんだけどね、魔導波が見える特殊能力をもっているの! 本来なら放射状に拡散する波に、指向性を持たすことに成功し、通話アイテムの基礎を作ったのも彼女なのよ。ちなみに実家はコーチ・カウンティの漁師さん! カツオが食べたくなったら彼女に言ってね」 「もう、マルティナさんたら、褒めても何も出ませんよ……恥ずかしいわ」  頬を染めて、うつむくポーラ。よかった、ようやくまともな奴が来た。まて、……コーチのカツオって、高知か? こちらの地理はどうなっているんだ…… 「はじめまして、スチュアートさん。俺は赤城 直也、こちらは戸根 淳と加賀 遥だ。これから長い付き合いになると思うから、今後ともよろしくな」 「戸根 淳です。よろしくっす!」 「はじめまして、です。 はるかっていいます。 よろしくおねがいします。」 「こちらこそ、よろしくお願いいたしますね。 わたくしも皆様と仲良くしたいですし、ポーラ、と呼んでいただけますか?」 「わかった、ポーラ。よろしくな」 「了解っす! ポーラちゃん!」 「はい、ポーラさん」  うむ、完璧な自己紹介の流れだ。彼女とはうまくやれそうだな。 「よし、メンバーもそろったことだし、仕事を始めるか!」 「……なんか私の時と反応が違わない?」  マルティナがなにか文句を言っているが、たびたび爆発騒ぎをおこしている自覚は無いらしい。
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