4.不純で純粋で単純な動機

2/5
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/108ページ
 週明けの月曜日、私は翌日に控えた合唱コンクールの朝練のために、いつもより30分早く家を出た。しおれていたカーネーションが手向けられている交差点のところまで歩いて行くと、そこには新しいカーネーションが備えられていた。  私は国道を渡るために信号を待っていると、レンガ色のマンションの扉が開き、金ボタンのない紺色の学ランを着た男子が出てきて、私が立っている位置とは反対側に歩いて行った。その男子は、間違いなくレモンティーの彼だった。  特徴的な制服だったから、彼がどこの高校の生徒なのか、すぐにわかった。と同時に、私は驚いていた。そして、想像していた。ポケットのところに赤い校章が刺繍された指定のカバンを肩にかけ、軽やかに歩いて行く彼の背中を見送りながら――  私が今身に着けている何の変哲もない紺色のブレザーを脱いだあとに袖を通すのはいったいどんな制服なのだろう。ワンランク下の高校に進学したら、紺色のブレザーの下のスカートは青地に紺色のチェック柄だ。白いシャツの襟元を飾るリボンは学年によってカラーが違う。新1年生の学年色は深緑色だ。浮遊している私ではなく、「表向きの私」にとっては悪くはない。  でも、もうひとつランクが下がってしまえば、今、身に着けているこの制服と、上も下もほとんど変わらない。せいぜいスカートの(ひだ)の数が増えるぐらいのものだ。  そこまで想像して、私は戸惑っていた。もしも、第1志望校に合格したならば、私はセーラー服を身に着けることになる。もちろん、それ自体が悪いことではなく、むしろ、これまでがブレザーだったのだから、セーラー服に袖を通すことは、「表向きの私」にとっては、ある種の憧れに近いものがあった。でも、今、この瞬間、その憧れは全く別の意味を持ち始めていた。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!