6.お願い、受からないで!

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6.お願い、受からないで!

 私はほとんど毎日、昼食を食べ終わるとすぐに図書室に行った。蒼井くんが先にいるときもあったし、逆のときもあった。私は本を探すふりをしながら、書棚の影から彼の様子をうかがい見ていた。そして、今現在読んでいる本のタイトルをこっそり盗み見た。  初めてのときはアランの『幸福論』を読んでいた。私は、彼がその本を返却するタイミングを見計らって、すぐに同じ本を借りた。私がそれを四苦八苦しながら読んでいるあいだ、彼は芥川龍之介の『歯車』を読み始め、私が『幸福論』を読破しないうちに、精神医学の専門書を読み始めていた。そして次、私がやっと『歯車』を借りたときには、彼は『断捨離と深層心理』というタイトルの、心理学の本を読み始めていた。  そうやって、順繰りに同じ本を読み進め、およそ3ヶ月が過ぎた。私は高校に入学してからずいぶんの本を読んだ。メカニック技術について詳しく書かれた、私にはあまり縁のなさそうなマニアックな本や、キルケゴールの『死に至る病』やショウペンハウエルの『自殺について』などの難しい本もあったけれど、だいたいの本は楽しく読めたし、ためになる本もたくさんあった。「私の趣味は読書です」と、人前で堂々と言えるくらい、本を読むという行為は私の生活の一部になっていた。  大城高校に合格したのを機に、私はばっさりと髪を切った。「母」がバレエを辞めてもいいと言い出したから、発表会に備えて髪を長くしておく必要がなくなったのだ。それと同時に、オーディションの話も一切でなくなった。けれども、相変わらず「母」は私の勉強に口出ししてきた。今度は勉強一本に絞らせるつもりなのだろう。いわゆる「難関大」と呼ばれる大学に進学することを望んでいるらしく、個別指導の進学塾に通うように言われ、部活に入ることを禁止された。  もっとも、自分自身、大学には進学したかったから、塾の話は受け容れることにしたし、部活の件も表向きは彼女の意向に従うかたちとなったが、元々その気がなかったので、何の不都合もなかった。というのも、私は「生態観察クラブ」の活動をしなければならなかったのだし、蒼井くんもまた、部活には入っていなかったからだ。  
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