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蒼井くんは部活動をしない代わりになのか、生徒会の活動をしていて放課後も忙しそうだった。それに、1年と2年での時間割の違いや放課後講座の関係もあって、彼と帰りの時間が重なることはあまり多くなかった。タイミングが合ったときには、私は電車で帰ることにしていたが、合わないときには学校からターミナル駅まで走った。私も蒼井くんと同じように、ランニングがしたかったのだが、家に帰ると自習や塾が待っているから、彼と同じ時間帯に走ることができなかったのだ。
ランニングをして帰る日は、私は教材類を全てロッカーにしまい、校舎の1階のトイレでこっそりジャージに着替えた。セーラー服と革靴を指定カバンに突っ込んで、リュックのようにしてそのカバンを背負い、ターミナル駅までひたすら走った。長年にわたりバレエをやらされていたこともあって、体を動かすことにそれほど苦手意識はなかったが、初めのうちはなかなか思うようなペースで走ることができなかった。
けれども、回数を重ねていくうちに、足がすんなり動くようになり、息もあがらなくなっていった。走り始めたときは50分かかっていたが、気づけば40分を切るようになっていて、走ることに快感を覚えるとともに、走ることもまた、読書と同じく私の生活の一部になっていた。
彼のことを考えながら、彼と同じことをしている。それこそが私の喜びだった。私の頭の中は彼に関する疑問で満ち溢れていたが、それもまた、私をわくわくさせた。
私は走っているあいだずっと、彼のことを考えているが、彼はいったい何を考えて走っているのだろう。私は彼と同じ感覚を味わいたくて、その目的のために走っているが、彼はいったい何の目的で走っているのだろう。単に健康維持のためなのかもしれないが、それだったら部活に入ってもよさそうなのに、どうしてそれをしないのだろう。人づきあいが苦手だとしたら、生徒会活動もきっと避けるはずだろうし、入学式の翌日にしゃべっていた男子たちとも、相変わらず行動をともにしている。他のクラスの生徒や先生たちとも、打ち解けて話している様子を何度も見かけているし、交際している女子の影はなかったものの、女子生徒ともそれなりに交流があるようだった。学校の中で彼が単独行動をするのは、あくまで昼休みの図書室での時間だけだった。
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