第二章 晴翔の三年間

2/6
前へ
/33ページ
次へ
 会計を終えて晴翔が待っている席に戻る。大雅のトレイを見て、晴翔が大袈裟に驚く。 「大雅、お前甘党だったっけ? ドーナツ四個もよく食えるな」 「違うよ、これはお前の分。飲み物わかんなかったからコーヒーにしといた」  晴翔が大雅を凝視する。何か……言いたいことがあるような、でもそれをためらっているような変な空気感だった。 「ね、食べよ? ドーナツ美味しそう」  取りなすように言ってみたけれども、晴翔は相変わらず何か言いたげなままだった。 「お前んちでさ、おやつ勝手に食ったことある」 「え?」  突然の大雅の告白に、わたしも晴翔も何の話? と首をかしげた。大雅は構わずに続けた。 「あんとき晴翔、香奈を呼びに行ってていなくてさ、リビングにおばさんが焼いたシフォンケーキがあってつい、さ……だって、おばさんのケーキ、すげえいい匂いしてたんだぜ? 我慢できないよ」 「マジかよ。あんときオレ、お母さんにすげえ叱られたんだぞ? ぜんっぜん身に覚えなかったのにさ」 「ごめん。だから今更だけどこのドーナツはあの時のお詫び」  そう言うと大雅は自分の分のドーナツとアイスコーヒーをトレイからテーブルに移すと、晴翔の分が乗っているトレイを捧げ持つように差し出した。 「……ま、そういうことなら食ってやらんでもないけどな」  晴翔がニヤリと笑う。大雅もニヤリと笑って、わたしは内心ほっとした。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

85人が本棚に入れています
本棚に追加