第二章 晴翔の三年間

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「でさ、今までのこと、どこまで俺たち聞いていいの?」  大雅がチョコドーナツをぱくつきながら聞いた。晴翔はフレンチクルーラーを飲み込むと、コーヒーに手を伸ばしながら何を言おうか考えているみたいだった。わたしも慌てて会話に参加する。 「心配だったんだよ、わたしも大雅も何にも知らなくて。中学の入学式、約束通り三人で行けるって思ってたから……突然過ぎて、ほんと驚いたし」 「話したくないこともあるだろうからそれは追求しない。けど、どこに越して、何して、今回こっちに帰ってきた経緯とかさ。話せる範囲で教えてくれよ」 「うん……わかった」  晴翔は紙ナプキンで口を軽く拭うと、ニ個目のドーナツに手を出しながら、ぽつぽつと語り始めた。 「オレもさ、お前らと入学式行けるもんだと思ってた。あの晩、お父さんが帰ってくるまでは」  あの日の夜、晴翔のお父さんが帰ってきて開口一番「長野に行く」と言ったらしい。  お父さんは多分前から準備してたんだと思う、と晴翔は言ったけど、晴翔も晴翔のお母さんも突然のことに思考停止状態だったらしい。  手荷物をまとめていると知らない男の人たちが家にやってきて、引越しを手伝ってくれたのだという。 「お父さんの会社の元部下の人たちがきてくれてさ、その伝で引越しのプロも雇って、大きい家具とかはその人たちに任せるから、って」  夜半過ぎに車で出発し、長野に住んでいるおじさんの親戚の家に着いたのは、明け方だったという。
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