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「で?」
大雅が促す。晴翔はそんな大雅から目を逸らし、聞こえるか聞こえないかくらいの声で言った。
「その、悪かった。怪我させちゃったりとか」
「ああ、大したことねぇし。大丈夫」
「香奈も、その……ごめんな、色々」
「ううん……、いいの」
なぜ突然謝ったのか。なぜ雰囲気が変わったのか。柔らかくなった晴翔は、張り詰めていたものがなくなってなんだか少し、昔の頃に戻れたような気分だ。
「まあ、それでさ。二人のどっちでもいいんだけど」
晴翔はポケットからハサミを取り出し、テーブルに置いた。
「髪、切ってくれないか」
晴翔の顔と、テーブルの上のハサミを交互に見る。大雅も同じように晴翔とハサミを見ている。
「もう、切っていいんだ。伸ばす理由がなくなった」
「切る、って……」
先生に注意されても、生徒会に呼び出されても頑なに髪を切らなかった。クラス中、ううん、学年中から注目を浴びて、孤立して、誰とも仲良くなろうとしなくて。わたしにだって、「話しかけるな」と牽制してきたのに。
「理由聞いていいのか」
「んー……、うん、いいよ。願掛け、してたんだ」
「願掛け?」
「うん」
大雅がハサミを取った。晴翔の後ろに立つ。
「良かったな」
「ん?」
「叶ったんだろ? 願い事」
「……うん」
晴翔はニヤリと笑い、解放されたかのように言った。
「苦しかったなぁ……けど、やった甲斐があった」
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