85人が本棚に入れています
本棚に追加
入学式の日はよく晴れていて、気持ちのいい青空が広がっていた。大雅とバスに乗り、学校の名前がついたバス停で降りると目の前に校門があった。ここに来るのは合格発表の時以来か。
大勢の新入生とともに校門を通り体育館を目指す。体育館の手前に受付の事務机があり、名前を告げると紙を渡された。クラス分けが書いてある紙だ。
「大雅何組?」
「俺は三組。香奈は?」
「五組。クラス違っちゃったね」
中学からこの高校を受けたのはわたしと大雅だけだから、大雅とクラスが別れて本当に一人ぼっちだ、と確信した。
「……ちょっと期待、したんだけどな」
「何を?」
「香奈と同じクラスにならないかな、って」
「わたしも……心細いよね」
「うん」
体育館に向かいながらもう一度渡されたクラス名簿を見る。知らない名前ばかりなのは当然として、この中から何人の子達と仲良くなれるんだろう。
「あ、ねぇ」
何も考えずに、見つけた名前のことを大雅に言おうとして口をつぐむ。いけないいけない、もう忘れようって誓ったじゃない?
「何?」
「ううん。何でも無い」
かぶりを振ったわたしの横を、さらり、と長い髪が通り過ぎた。
「うわ、すげぇロン毛」
「え? 女の子じゃないの?」
「男だろ、ズボンだし」
「うちの学校、女子でもズボン選べるじゃん」
通り過ぎたその人もまた、新入生なんだろう。制服が真新しくて、少しぎこちない。腰まである長い黒髪は艶やかに光っている。きちんと手入れされた綺麗な髪だ。
その髪が、風に吹かれてふわりと舞った。その軌跡を追うように、新葉が多くなった桜の木から散った名残の花びらが、その人のまわりでくるりと舞う。
「あの尻は男だろ。間違いない」
「大雅! どこ見てんのよ!」
大雅をどやしつけてふと体育館の方に顔を向けると、長い髪の彼……は、もう中に入ってしまったのか、姿がなかった。
最初のコメントを投稿しよう!