第一章 三年後

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 入学式の日はよく晴れていて、気持ちのいい青空が広がっていた。大雅とバスに乗り、学校の名前がついたバス停で降りると目の前に校門があった。ここに来るのは合格発表の時以来か。  大勢の新入生とともに校門を通り体育館を目指す。体育館の手前に受付の事務机があり、名前を告げると紙を渡された。クラス分けが書いてある紙だ。 「大雅何組?」 「俺は三組。香奈は?」 「五組。クラス違っちゃったね」  中学からこの高校を受けたのはわたしと大雅だけだから、大雅とクラスが別れて本当に一人ぼっちだ、と確信した。 「……ちょっと期待、したんだけどな」 「何を?」 「香奈と同じクラスにならないかな、って」 「わたしも……心細いよね」 「うん」  体育館に向かいながらもう一度渡されたクラス名簿を見る。知らない名前ばかりなのは当然として、この中から何人の子達と仲良くなれるんだろう。 「あ、ねぇ」  何も考えずに、見つけた名前のことを大雅に言おうとして口をつぐむ。いけないいけない、もう忘れようって誓ったじゃない? 「何?」 「ううん。何でも無い」  かぶりを振ったわたしの横を、さらり、と長い髪が通り過ぎた。 「うわ、すげぇロン毛」 「え? 女の子じゃないの?」 「男だろ、ズボンだし」 「うちの学校、女子でもズボン選べるじゃん」  通り過ぎたその人もまた、新入生なんだろう。制服が真新しくて、少しぎこちない。腰まである長い黒髪は艶やかに光っている。きちんと手入れされた綺麗な髪だ。  その髪が、風に吹かれてふわりと舞った。その軌跡を追うように、新葉が多くなった桜の木から散った名残の花びらが、その人のまわりでくるりと舞う。 「あの尻は男だろ。間違いない」 「大雅! どこ見てんのよ!」  大雅をどやしつけてふと体育館の方に顔を向けると、長い髪の彼……は、もう中に入ってしまったのか、姿がなかった。
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