83人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
クラスに入ると出席番号順に席に着く。私は廊下側の二列目、前から五番目。長髪の彼は……前の名字なら、多分隣の列くらいだったはずなんだけど。今の名字だと窓側一列目、一番前だ。
クラス名簿をもう一度確認する。「阿多晴翔」……晴翔じゃないよね? 違う人だよね?
担任の先生の挨拶。そして出席を取るのと兼ねて一人ずつ自己紹介をしよう、と言われて期待した。こっち、向くかも……。
でも、その期待は裏切られた。阿多晴翔は前を向いたまま、ボソボソと話してすぐに座ってしまった。ああ、確認できなかった……。
彼は前を向いたままだ。後ろを向かず、まっすぐ前を向いている。せめてわたしの自己紹介のときにこっちを向いて欲しい。もしも、もしも晴翔なら。わたしのこと、覚えてるよね? 忘れるわけ、ないよね?
順番が回ってきた。立ち上がり、震える声で自己紹介を始める。
「福原香奈です。テニス部に入ろうと思ってます、よろしくお願いします」
目が泳いでしまう。阿多、晴翔……こっちを向いた。
どきん、と心臓が跳ねる。目が、合いそうで合わない……。
「福原、座っていいよ。次、久永どうぞ」
先生の声に我に返り、椅子にへなへなと座り込む。晴翔だ。晴翔だった。なのに……まるで知らない他人を見るような目で、わたしを見た。
晴翔、なんで? わたしのこと忘れちゃったわけじゃないよね? もしかして、この三年間でだいぶ変わったかな? 当時の面影、残ってないから分からなかったかな?
晴翔だって変わっちゃったよね? そんなに髪、長く伸ばすなんて想像したこともなかった。身長、高くなったよね?
頭の中でぐるぐると思考が巡る。晴翔と話したい。聞きたいことが沢山ある。その前に、大雅に教えなくちゃ……晴翔が同じ高校だよ、同じクラスになったよ、って。
最初のコメントを投稿しよう!