第一章 三年後

5/7
83人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
 クラスに入ると出席番号順に席に着く。私は廊下側の二列目、前から五番目。長髪の彼は……前の名字なら、多分隣の列くらいだったはずなんだけど。今の名字だと窓側一列目、一番前だ。  クラス名簿をもう一度確認する。「阿多晴翔(あたはると)」……晴翔じゃないよね? 違う人だよね?  担任の先生の挨拶。そして出席を取るのと兼ねて一人ずつ自己紹介をしよう、と言われて期待した。こっち、向くかも……。  でも、その期待は裏切られた。阿多晴翔は前を向いたまま、ボソボソと話してすぐに座ってしまった。ああ、確認できなかった……。  彼は前を向いたままだ。後ろを向かず、まっすぐ前を向いている。せめてわたしの自己紹介のときにこっちを向いて欲しい。もしも、もしも晴翔なら。わたしのこと、覚えてるよね? 忘れるわけ、ないよね?  順番が回ってきた。立ち上がり、震える声で自己紹介を始める。 「福原香奈です。テニス部に入ろうと思ってます、よろしくお願いします」  目が泳いでしまう。阿多、晴翔……こっちを向いた。  どきん、と心臓が跳ねる。目が、合いそうで合わない……。 「福原、座っていいよ。次、久永どうぞ」  先生の声に我に返り、椅子にへなへなと座り込む。晴翔だ。晴翔だった。なのに……まるで知らない他人を見るような目で、わたしを見た。  晴翔、なんで? わたしのこと忘れちゃったわけじゃないよね? もしかして、この三年間でだいぶ変わったかな? 当時の面影、残ってないから分からなかったかな?  晴翔だって変わっちゃったよね? そんなに髪、長く伸ばすなんて想像したこともなかった。身長、高くなったよね?   頭の中でぐるぐると思考が巡る。晴翔と話したい。聞きたいことが沢山ある。その前に、大雅に教えなくちゃ……晴翔が同じ高校だよ、同じクラスになったよ、って。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!