第一章 三年後

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 三組に行くと、生徒のほとんどはすでに教室にいなくて、大雅がぽつん、と席に座っているのが目に入った。 「大雅、ちょっと」 「ああ、香奈。もう帰る?」 「あのさ、驚かないでほしいんだけど」 「なに?」 「うちのクラスに晴翔がいた」 「え?」  大雅が目を瞠る。 「え? え? 晴翔が? なんで? 俺、話見えてないんだけど」 「だからっ」  大雅に説明しようとしつつ晴翔が気になる。先生になんの用事で呼ばれたのか知らないけど、ここで話してる間に晴翔が帰っちゃったら? 「とりあえず職員室行くよ! 晴翔、先生に呼ばれて行ってるはずだから」 「あ、ああ」  職員室に早足で向かいながら、大雅にことの経緯を手短に伝えた。同じクラスに晴翔がいたこと。苗字が違っていたこと。私の名前を聞いても振り向かなかったこと……。  職員室に着くと同時に、職員室のドアが開いた。あ……晴翔だ……。  晴翔の目が、ゆっくりわたしと大雅を捉える。揺らぐ……その目に、懐かしさが宿った気がして気がついたら声をかけていた。 「晴翔!」 「なんだよお前、いつの間に同じ高校受けてんだよ。全然知らなかったよ」  大雅が拳を作って軽く晴翔の胸を小突く。 「香奈……、大雅……」  迷うように寄せられる眉頭。なぜだろう、その時にふと感じてしまった……もしかして、って。  でも、その数秒後にふっ、と晴翔の口角が上がった。それを見て安心した……晴翔の笑顔だ。三年振りに見る、晴翔の笑う顔だ。 「わたしと晴翔、同じクラスなんだよ? さっきの自己紹介のとき気づかなかった?」 「あ……ごめん、気づかなかった」 「今どこ住んでんの? おじさんとおばさんは元気か?」 「あー……」  言い淀む。笑顔が消える。視線が斜め下に向けられ、上を向かない。その様子に、答えにくいことを聞いてしまったのだと気がついた。 「お父さんとお母さん、離婚したんだ。今はお父さんとは連絡、取ってないから」  晴翔が髪をかき上げる。長い黒髪が揺れた。 「あ……、そっか。ごめん」 「いや、いいよ」  だから苗字、「椎野」じゃなくて「阿多」だったんだ。 「まあ、色々聞きたいことあるから、帰りどっか寄ってかね? 晴翔、お前なんか用事ある?」 「いや……、ないけど」 「香奈はもちろん付き合うよな?」  うんうん、と力強く頷く。空白の三年間、どこにいて何をしていたのか。そして今どこに住んでいるのか。聞きたいことは山のようにあった。
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