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三組に行くと、生徒のほとんどはすでに教室にいなくて、大雅がぽつん、と席に座っているのが目に入った。
「大雅、ちょっと」
「ああ、香奈。もう帰る?」
「あのさ、驚かないでほしいんだけど」
「なに?」
「うちのクラスに晴翔がいた」
「え?」
大雅が目を瞠る。
「え? え? 晴翔が? なんで? 俺、話見えてないんだけど」
「だからっ」
大雅に説明しようとしつつ晴翔が気になる。先生になんの用事で呼ばれたのか知らないけど、ここで話してる間に晴翔が帰っちゃったら?
「とりあえず職員室行くよ! 晴翔、先生に呼ばれて行ってるはずだから」
「あ、ああ」
職員室に早足で向かいながら、大雅にことの経緯を手短に伝えた。同じクラスに晴翔がいたこと。苗字が違っていたこと。私の名前を聞いても振り向かなかったこと……。
職員室に着くと同時に、職員室のドアが開いた。あ……晴翔だ……。
晴翔の目が、ゆっくりわたしと大雅を捉える。揺らぐ……その目に、懐かしさが宿った気がして気がついたら声をかけていた。
「晴翔!」
「なんだよお前、いつの間に同じ高校受けてんだよ。全然知らなかったよ」
大雅が拳を作って軽く晴翔の胸を小突く。
「香奈……、大雅……」
迷うように寄せられる眉頭。なぜだろう、その時にふと感じてしまった……もしかして、って。
でも、その数秒後にふっ、と晴翔の口角が上がった。それを見て安心した……晴翔の笑顔だ。三年振りに見る、晴翔の笑う顔だ。
「わたしと晴翔、同じクラスなんだよ? さっきの自己紹介のとき気づかなかった?」
「あ……ごめん、気づかなかった」
「今どこ住んでんの? おじさんとおばさんは元気か?」
「あー……」
言い淀む。笑顔が消える。視線が斜め下に向けられ、上を向かない。その様子に、答えにくいことを聞いてしまったのだと気がついた。
「お父さんとお母さん、離婚したんだ。今はお父さんとは連絡、取ってないから」
晴翔が髪をかき上げる。長い黒髪が揺れた。
「あ……、そっか。ごめん」
「いや、いいよ」
だから苗字、「椎野」じゃなくて「阿多」だったんだ。
「まあ、色々聞きたいことあるから、帰りどっか寄ってかね? 晴翔、お前なんか用事ある?」
「いや……、ないけど」
「香奈はもちろん付き合うよな?」
うんうん、と力強く頷く。空白の三年間、どこにいて何をしていたのか。そして今どこに住んでいるのか。聞きたいことは山のようにあった。
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