しげしの道 E.10月のクリスマス

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 2 . 「神聖な作業台」が悲劇を生む  上場企業の「工場」と言いつつ、広さは高校の調理室ほど。  正社員は、工場長以下4人のみ。  後は皆パート・バイト等の非正規社員。  クリスマス直前でも、総員は10名ほど。  これが、上場企業Z広島工場の実態だった。  工場長は、小柄、スリム、色白、童顔、年齢不詳。  バイトのぼくにも丁寧語を使う紳士。  と思ったのだが、この男、今でいうパワハラ上司。  というより、バイオレンス上司だったのだ。  このZ工場には、イスが一つもない。  なぜか ?  「 イスは休むための物、工場は働く所、工場にイスは必要ない 」  工場長のポリシー。  (工場長、世の中たくさんいますよ、イスに座って働いてる人が !)    が、イスではないが、似た高さ、座りたくなるものが工場に。  中央に設置の、広々とした作業台。  だが、ここに絶対に座ってはならない。  「 これは神聖な作業台、お前らの汚いケツを絶対のせるな!」  との工場長の勅命が下っていた。  バイトのぼくも、初日にそれを厳命されてた。  その日、工場長は一日中出張とのことだった。  朝から、工場内の雰囲気が全く違った。  空気が甘くさえ感じられた。  午後3時、一応、休息時間。  休息せず働き続けるのであれば問題なし。  が、もし、休息するなら、休憩室へ行かねばならない。  「 工場は働く所、休む所ではない 」  と、これまた、工場長のポリシーが存在したので。  が、今日は工場長がいない。  たかが15分の休息、別棟の休憩室へ行くのは面倒。  正社員A・B・Cは工場内で休息を。  バイトのぼくも便乗、一休み。  窓際にもたれ、憩いのひとときを。  ところがである。  窓のむこうに、いないはずの男が。  いや、絶対いてはダメな男が!   ぼくが驚いてるうち、工場長は、早くも入り口へ。  マズイ、みんなに知らせなければ。  が、振り返ったときには、もはや遅し。  Aが、作業台の角に寄りかかってた。  決して、座ってはいなかったのだが。  それを見た工場長、顔色激変!  後ろに目のないA、気づくはずもなく。  次の瞬間、工場長が跳んだ。  Aの後頭部に、ラリーアットもどきが炸裂。  Aはモロに、コンクリートの床へ。  「 わりゃ、なんべん言わすんなら。  お前の汚いケツを神聖な作業台に乗せるな言うとろうが。  わりゃ、この仕事にむいとらんのよ。  むいとらんやつが、なんぼ努力してもムダよ。  不用品よ、邪魔なんよ、迷惑なんよ、役立たずの有害ゴミが!  〇〇のド田舎( Aの故郷 )に帰れ!!」  物理的暴力、プラス言葉の暴力、連続炸裂。  怖すぎて声も出ず。  悪寒が。  打ち所が悪かったか、Aは立ち上がることすらできず。  その被害状況不明のAに、工場長はさらに蹴りを!   さすがに、正社員B・Cが止めに入った。  当然、止めるとどうなるかわかってたろうが。  Bは顔面ひじうちを喰らわされた。  Cはつきとばされ、巨大オーブン激突!  吹き荒れる職場内バイオレンスの嵐。  もう、だれもこの男を止められない!  そう思った時である。  「 堪忍したって!」  の叫び声、巨漢男が、工場長を羽交い締めに。   営業所長。  大阪本部から来ており、工場長より上に位置する唯一の人物。  羽交い絞めされた工場長、しばらくは、興奮しブルブル震えてた。  が、やがて、静かに。  やっと起き上がったA。  日頃は工場長に絶対服従のA。  が、さすがに今回はキレルと思った。  作業台に座っておらず、寄りかかっていただけ。  不景気・就職難の時代ではない。  超人手不足の時代。  しかも、クリスマスが接近。  このバイオレンス工場長のもと、5年も耐えて修行。  辞めさせられても、再就職は楽勝なのでは?  が、Aはコンクリートの床に土下座して工場長に謝罪。  翌日、工場では、全員、何事もなかったように働いてた。  なぜ ?  どうして?  恐怖のZケーキ工場!    ( 3. 「人殺し」呼ばわりされました に続く )
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