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2 . 「神聖な作業台」が悲劇を生む
上場企業の「工場」と言いつつ、広さは高校の調理室ほど。
正社員は、工場長以下4人のみ。
後は皆パート・バイト等の非正規社員。
クリスマス直前でも、総員は10名ほど。
これが、上場企業Z広島工場の実態だった。
工場長は、小柄、スリム、色白、童顔、年齢不詳。
バイトのぼくにも丁寧語を使う紳士。
と思ったのだが、この男、今でいうパワハラ上司。
というより、バイオレンス上司だったのだ。
このZ工場には、イスが一つもない。
なぜか ?
「 イスは休むための物、工場は働く所、工場にイスは必要ない 」
工場長のポリシー。
(工場長、世の中たくさんいますよ、イスに座って働いてる人が !)
が、イスではないが、似た高さ、座りたくなるものが工場に。
中央に設置の、広々とした作業台。
だが、ここに絶対に座ってはならない。
「 これは神聖な作業台、お前らの汚いケツを絶対のせるな!」
との工場長の勅命が下っていた。
バイトのぼくも、初日にそれを厳命されてた。
その日、工場長は一日中出張とのことだった。
朝から、工場内の雰囲気が全く違った。
空気が甘くさえ感じられた。
午後3時、一応、休息時間。
休息せず働き続けるのであれば問題なし。
が、もし、休息するなら、休憩室へ行かねばならない。
「 工場は働く所、休む所ではない 」
と、これまた、工場長のポリシーが存在したので。
が、今日は工場長がいない。
たかが15分の休息、別棟の休憩室へ行くのは面倒。
正社員A・B・Cは工場内で休息を。
バイトのぼくも便乗、一休み。
窓際にもたれ、憩いのひとときを。
ところがである。
窓のむこうに、いないはずの男が。
いや、絶対いてはダメな男が!
ぼくが驚いてるうち、工場長は、早くも入り口へ。
マズイ、みんなに知らせなければ。
が、振り返ったときには、もはや遅し。
Aが、作業台の角に寄りかかってた。
決して、座ってはいなかったのだが。
それを見た工場長、顔色激変!
後ろに目のないA、気づくはずもなく。
次の瞬間、工場長が跳んだ。
Aの後頭部に、ラリーアットもどきが炸裂。
Aはモロに、コンクリートの床へ。
「 わりゃ、なんべん言わすんなら。
お前の汚いケツを神聖な作業台に乗せるな言うとろうが。
わりゃ、この仕事にむいとらんのよ。
むいとらんやつが、なんぼ努力してもムダよ。
不用品よ、邪魔なんよ、迷惑なんよ、役立たずの有害ゴミが!
〇〇のド田舎( Aの故郷 )に帰れ!!」
物理的暴力、プラス言葉の暴力、連続炸裂。
怖すぎて声も出ず。
悪寒が。
打ち所が悪かったか、Aは立ち上がることすらできず。
その被害状況不明のAに、工場長はさらに蹴りを!
さすがに、正社員B・Cが止めに入った。
当然、止めるとどうなるかわかってたろうが。
Bは顔面ひじうちを喰らわされた。
Cはつきとばされ、巨大オーブン激突!
吹き荒れる職場内バイオレンスの嵐。
もう、だれもこの男を止められない!
そう思った時である。
「 堪忍したって!」
の叫び声、巨漢男が、工場長を羽交い締めに。
営業所長。
大阪本部から来ており、工場長より上に位置する唯一の人物。
羽交い絞めされた工場長、しばらくは、興奮しブルブル震えてた。
が、やがて、静かに。
やっと起き上がったA。
日頃は工場長に絶対服従のA。
が、さすがに今回はキレルと思った。
作業台に座っておらず、寄りかかっていただけ。
不景気・就職難の時代ではない。
超人手不足の時代。
しかも、クリスマスが接近。
このバイオレンス工場長のもと、5年も耐えて修行。
辞めさせられても、再就職は楽勝なのでは?
が、Aはコンクリートの床に土下座して工場長に謝罪。
翌日、工場では、全員、何事もなかったように働いてた。
なぜ ?
どうして?
恐怖のZケーキ工場!
( 3. 「人殺し」呼ばわりされました に続く )
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