しげしの道 E.10月のクリスマス

3/11
前へ
/11ページ
次へ
 3. 「人殺し」呼ばわりされました  ぼくは、どんな失敗をしても殴られなかった。  所長直々の「 禁止命令 」 が出ていたので。  が、人権尊重の精神とかではない。  大学紹介のバイトを殴ってトラブルに。  そうなると、大阪本部へ帰れない恐れが。  彼の関心事は故郷でもある大阪本部へ帰ることのみ。  工場長は、工場では、ぼくと口をきくことさえせず。  指示・命令・指導は、すべて、アルバイト担当Aが行った。  ぼくの失敗はすべてAの責任になり、Aが工場長に怒られる方式。    このAが大問題。  工場長に厳しく指導(?)され、たまりたまったストレス。  そのストレス解消の絶好の標的にぼくはされたのだった。  所長命令があるので、ぼくに、暴力はふるえない。  が、暴言は、所長も工場長も実質黙認。  Aは、言葉の暴力なら工場長に勝るとも劣らぬ男だった。  Aは、初日から、ぼくを、「おいK」と呼び捨てに。  しかも、常に、何か恨みでもあるような口調で。  工場長ですら、常に、ぼくを「 K君 」と呼んでたのに。   Aに「 人殺し 」 呼ばわりされたこともある。  「 おいK、これ全部洗え !」  そう言って、使用済み道具が入ったボールを寄越してきた。  「 洗ったら、こっちに入れとけ!」  と、さらに新しいボールを2つ。  ぼくは、怒鳴られぬよう、丁寧かつすばやく洗った。  洗い終わった道具は、一つのボールに収まった。  「 洗い終わりました 」  「 人殺し!」  「 ナ、何のことですか ?」  「 『 なんのことですか 』じゃと、フザケルナ、これはなんな?」  「 大きなスポンジとか切るときのステンレスの板かと 」  「 これは手を切る怖れのある物か?」  「 え、まあ切れるといえばそうかも 」  「 わかっとって、同じボールに入れたんか、ワシを殺すつもりか!」  「 そんなおおげさな 」  「 なにがおおげさな、他の道具をとる時、ついウッカリがあろうが。  出血多量で死んだらどうするんな!?」  「ステンレスの板で出血多量はないんじゃ?」  「 なんで、ボールを二つ渡したんな、別々に入れるためじゃろうが。  手を切る恐れのある物と手を切る恐れのない物を 」  「 それなら最初から言ってくれれば 」  「 バカかおまえは、それぐらい、小学生でも知っとる日本の常識よ!   オマエ、本当に大学生か、大学でなに習いよんな!?」  『 道具洗い学 』とかは習ってねえ~よ!  確かに、別々に分けて入れておけば、安全。  でも、最初から教えてくれればいいのに。  なぜ?  どうして?  恐怖のZケーキ工場。  ( 4.「 スパイ 」呼ばわりもされました に続く )
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加