しげしの道 E.10月のクリスマス

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 6 . Aは魔術師だった    「 おいK、卵全部割ってボールに入れえ、それぐらいできよう ?」  「 はいできます 」  と、条件反射で答えたが疑問が。  何か失敗させて怒鳴るつもりなのは間違いない。  が、卵を割るだけで何か失敗することがある?  「 牛乳アワ事件」 を思い出した。  卵を割ると殻に少し液・膜が残りがち。  「 おまえが残した液・膜200個分で卵1個分になる。  まえは、毎日、卵1個捨てる気か、1年で300個、10年で3000個……  おまえはZを潰しに来たスパイか!」  このパターンに違いない。  そうはいくか。  割った殻を、激しく何度も振る。  最後の一膜一滴も残らないように。  「 バカかオマエは、そんなやり方、日が暮れらあ!」  チェツ、今度はその言いがかりパターンかよ!  「 どけえ、卵割りは、こうやるんよ!」  実は、技を見せたかったのである。  左手、軽くボールに添え、右手卵の山脈に。  卵がボールの角に当たった瞬間、中身はボール1、殻はボール2へ。  と、思った瞬間にはもう次の卵を !  カシャ、バッ、ポン、カシャ、バッ、ポン……  恐るべきスピード。  巨大な卵の山がまたたくまに消えていく。  よっ、卵割りの魔術師!  見よ、5年間、毎日恐ろしい数の卵を割り続けた男の生きザマを!  「 おいK、今度は、卵を別々に入れえ。  これに白身、これに黄身、これに殻、わかったの !」  「 はい 」  と、飼いならされた習性で、大声で返事。  が、実際は、「 えっ? 」 という感じ。  さすがに、ぼくも、ゆで卵なら黄身と白身に分けれる。  が、生卵を、いったいどうやって?  大学で習ってないことだけは確か。  Aはわざと、「できるか?」と聞かなかった気も。  考えた末、あちこち探して、お椀と箸を。  椀に卵を割り入れ、角に二本の箸を。  すき間から注意深く白身だけ流し出す。  「 ああっ、黄身が壊れてなかに……」  「バカか、おまえは!  卵を、黄身と白身に分けることもできんのか。  日本の常識じゃろうが、小学生でもできらあ。  オマエ、ほんまに、大学生か、大学で何習ようるんな!」  『 卵割り学 』は習ってないつう~の。  「 バカが、こうやるんよ、よう、見とけ!」  卵を割る際、割った二つの殻に、黄身を行き来さす。  そうやって、二つの殻のすき間から白身だけ下に流し落とす。  最後、殻に残った黄身を別のボールへ。  そうやって生卵の黄身と白身を分けるのだ。  が、教えられても、ぼくは、すぐにうまくはできず。  卵を割る際、殻の一部が壊れボールの白身内に落下。  小さな殻を一つ一つ取り除くのが面倒に。  「 いいか、カルシューム、カルシューム 」  などと言ってるとAが地獄耳でキャッチ、  「 バカか、便秘になったらどうするんな!」  「オマエなんかにやらしたワシが馬鹿じゃった。  オマエは、そこで、よう見とけ !」  カシャ、サッサッ、バッ、ポン 、カシャ、サッサッ ……  ス、すごかった。  驚異のスピード・正確さ、人間業ならず。  よっ、生卵の黄身と白身分けの魔術師 !  見よ、5年間恐ろしい数の卵を黄身と白身に分け続けた男の生きザマを !   < 7 . メロンの悲喜劇( お嬢様も登場 ) に続く >
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