耳がない者

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耳がない者

 蒸気が常に噴き上がる『セラフィ』には、金属を叩き、組み合わせるような工事の音が絶えず響いている。王都の隣に位置し、カーシュ公爵家が治める地の一つだ。  セラフィのあるクユシュタリア王国には、耳と尻尾を持つ者が暮らしていた。この国では耳と尻尾があることが重要視される。  この国における奴隷は、主に耳のない者が担う。耳のない子が生まれると、恐ろしいと人々は何も罪のない子をすぐ売りに出すのだ。なにがそんなに怖がられているのかといえば、耳なしは性別に関わらず子を産むことができるからだった。自然の理から外れたものとして忌み嫌われ、捨てられた。  そして、私も本来なら奴隷になっていたはずの耳なしだ。両親が耳を持たずに生まれてきたことをすぐさま隠蔽し、今までこうして何不自由なく育ててくれた。家族には感謝しかない。私のせいで危険な道を歩ませてしまったことが、申し訳なくて悔しくてたまらないけれど。  私の性別は男だったけれど、万が一、子を産んだとしても不審がられないように性別を女とし、公爵令嬢として育てられ今に至る。  耳がなくても声や音も聞こえるので不自由はなかったし、偽物の耳をつけてごまかしていた。他の人みたいに耳が感情に合わせて動かないから、何があっても感情がぶれない子って思われているらしい。お母様譲りの銀色でフサフサの狼の尻尾をよく見ていればそんなことないって分かると思うのだけれど、気付かれないならそのほうがいい。
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