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「端場さん、南栄町で殺人事件だってよ」  陽子は休憩室で流れるテレビのニュースを凝視していた。ハンガーからウィンドブレーカーを外していた手を止め、悠太はテレビを見つめる。夕方に聞いたばかりのニュースが流れていた。現場には血溜まりができている。人型に囲われた白い紐を見るだけで悠太は背筋に寒気を覚えた。 「暴力団同士の抗争が始まるのかしら、怖いわねえ。昔はこんな田舎じゃ殺人事件なんて起きなかったのに。物騒な世の中ね」  すっかり調子を取り戻した陽子はまるで専門家のように虚空へ持論を投げかけていた。その言葉を聞かぬまま、悠太は清住会の誰が殺害されたのかを知りたがっていた。しかしそこでも被害者の名は伏せられたままだった。 「もしかしたら殺した犯人が近くに逃げ込んでるかもね。端場さん、気をつけて帰ってね」  悠太は陽子に軽く会釈をして、ウインドブレーカーを着込んだ。そして今日家に訪れるはずの借金取りの姿を思い浮かべた。
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