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『お仕事ご苦労様です。冷蔵庫がないとは知らず、昨日買ってきた食材が傷んでしまうことを案じて朝食を作りました。帰宅されるお時間もわからないので逆算して作ったものの、もう冷めているかもしれません。その際は申し訳ありません』  流れるような文体でメモいっぱいに文字が連なっていた。悠太は複雑な思いを抱きながらしばらく朝食と睨み合いをした。しかし空腹には耐えられない。  悠太は冷めた食事を思い切りかき込んだ。その味を噛み締めると何故か父の作った品のない料理の数々が脳裏に浮かんできた。全く味も違う、使っている食材も料理すらも違う。  それなのに父の汚い野菜炒めを食べている自分の姿が浮かんで消えない。悠太は何故か泣いた。それはリサの作った朝食が美味かったからなのか、息子を一人置き、借金を残していった甲斐性なしの父を思い出したからなのかはわからなかった。
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