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 それでも狭間は暴力団の存在が街の均衡を保っているのだと信じている。このシマを清住会が取り仕切っていることでチーマーのような餓鬼が恐れ慄き、活動を制限しているのだ。サジの言葉はその狭間の思いを肯定してくれているようだった。  狭間はサジの肩を優しく叩いた。サジがゆっくりと顔を上げる。目尻に皺を寄せて柔和な笑みを浮かべていた。しかしすぐに顔色が曇り、目を伏せる。 「川島さんはここで死んだことを悔いてるかねえ」 「叔父貴はまともな死に方は似合わねえと言っていた。病気で死ぬよりはマシだったんじゃないか」 「やはり強い人だな。カタギは病気で死ぬ人生すら恐れてる。殺されるなんて夢物語だ。ただ、それは私たちが死を極限まで恐れているからだろうね。たくさんの死地を超えてきたあなた方は死が常に目の前にある。死の恐怖に怯えないからこそ、そのような強い気持ちが芽生えるのでしょうな」  サジは目を伏せたままだった。しかしその視線は確実に何かを見ているようだった。狭間は自分に注がれる事のない強い眼力を感じ取っていた。
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