鉛の感情

１０

「いや、あなたは必要と思うかもしれませんが僕は要りません。それに購入する資金もない。そんなこと言われても、その問題は解消できませんよ」

　怒気の籠った声を悠太は発した。リサに対して怯えているばかりだった悠太が初めて抱いた感情であった。

「お金のことなら心配しないでください。私が出しますから」

　温和な微笑みを浮かべるリサにまた怒りを覚える。そこまでしてこの家に執着する理由がわからなかった。

「いいですよ。そんな無駄金使うくらいなら早くご自宅にでも戻って優雅な生活を送るための資金にしたらどうですか？」

　そう発した瞬間、悠太は唇をすぐに噛み締める。怒りが沸点に達し、言い過ぎてしまったことを後悔したのだ。また脅されるかもしれない。先ほどまでの強気な態度は急速に冷めていき、残ったのは寒さに震える無防備な自分の姿だけだった。