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 午前十一時。借金取りの狭間英治(はざまえいじ)がアパートへ訪れる時間になった。いつも時間きっかりに訪れる狭間が今日は姿を現さない。やはり殺されたのは狭間だったのだろうか。悠太は締め付けられるように痛む胸を押さえながら、狭間の安否ばかりを気にかけていた。  午前十一時二十分。ドアが強くノックされる。常人であれば怯えるはずのその音に悠太は全身の力が抜けてしまうほどの安堵を覚えた。勢いよく立ち上がりドアを開けると、そこには黒いトレンチコートに身を包んだ大柄の男、狭間がいた。  だがいつもの派手な柄のネクタイは締めておらず、代わりに黒のネクタイが姿勢を正して、真っ直ぐにぶら下がっていた。  悠太は狭間の姿を見て、思わず息が漏れた。狭間が生きていた。ただ、その黒いネクタイはきっと葬式に参列するために締めている。つまり、狭間は父親が言っていたように清住会に所属している可能性が高い。悠太は複雑な思いを抱いた。 「よう、遅くなって悪いな」 「あ、いえ。どうぞ」  悠太は狭間を部屋へと招き入れる。薄くなった座布団を彼の座る場所へと敷く。狭間はいつものように大きな尻を勢いよく降ろした。少しばかり部屋の空気が振動する。
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