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「茶はいらねえぞ」
そう言いながら、狭間はコートを脱いだ。上下黒檀のように染まったスーツで身を包んでいた。
「あ、今水道だけ止まってるんです。払うの忘れちゃって」
悠太は頭を掻きながら、何度も頭を下げた。
「そうか。払う金がないっていうわけではないのか?」
「払うくらいのお金はありますよ。ご心配なく」
悠太は鞄から茶封筒を取り出し、テーブルの上に置いた。狭間はすぐに封を開けて中身の金額を数え始める。
「きっちりだな。まだまだ返済額は残ってるが、これからも行方知れずになった親父のために頑張ってくれよ」
狭間は悠太の肩を優しく叩いた。右手の小指は第一関節から先がない。幼い頃に悠太は何故指がないのかと聞いた記憶がある。その時は事故で無くなったと言っていた。
だがそれが何を意味しているのかを最近知った。とは言ってもたまたまコンビニで立ち読みした漫画に掲載されていた内容で、真実かどうかはわからない。
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