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ヤクザは不始末をしでかすと、責任を取るために指を詰める。
悠太は絵空事のような話だと、その時は鵜呑みにはしなかった。しかし目の前にいる暴力団関係者の可能性が高い狭間の指は、確かにない。それを見ると、急にその話が現実味を帯びてきた気がした。
「今日服装違いますね」
何の気なしに悠太は聞いた。すると狭間はにこやかな表情を崩し、眉間に深い皺を寄せる。
「ちょっとな」
口調は穏やかであったが、厳しい表情に変化はない。
「お葬式ですか?」
悠太がそう問いかけた瞬間、狭間はテーブルに肘を置き、体を前のめりにして悠太の顔を覗き込んだ。浅黒い顔には小さな傷が少しばかり見受けられた。
「何だよ、やけに色々と突っ込んでくるじゃねえか。あ、昨日の殺人事件と俺が関係してるのかを勘ぐってんだろ?」
右側の口角だけを上げて、狭間は笑った。煙草の燻臭さが残る口臭が悠太を襲う。
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