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「まあ、そんなところです」
悠太の返答に対し、狭間は豪快に笑う。
「そうかそうか。まあ悠太くんが気にすることじゃねえよ」
狭間は言葉を濁し、乱雑に置いていたトレンチコートを着始めた。トレンチコートから柑橘系の爽やかな香りが立ち上っていく。この匂いは狭間が帰った後もしばらく部屋の中で滞留し続ける。
「もう行くんですか?」
「ああ、まだ戻ってやらなきゃいけないことがある。意外と忙しいのよ、俺も」
狭間が立ち上がると同時に悠太も立ち上がる。
「体、気をつけてくださいね」
悠太はその言葉に二つの意味を込めていた。単に体を壊さないでほしいという意味合い。そして厄介な事件に巻き込まれているならば命を失わないでほしいという意味合い。どちらにせよ悠太は狭間の身を案じていた。
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