2/10

69人が本棚に入れています
本棚に追加
/397ページ
 オレンジ色に染まる夕日が部屋全体を包み込む。窓から差し込む光はこの時間になるとやけに心を落ち着かせる。端場悠太(はばゆうた)はテーブルに突っ伏したまま、僅かな音を垂れ流しているラジオに耳を傾けていた。 「本日未明、山中市にある路上で男性が何者かにより射殺される事件が起きました。殺害された男性は指定暴力団阿川組の二次団体清住会の組員であるとの情報が入っております」  清住会。その名前が流れた瞬間、悠太は体を反射的に起こした。甲斐性なしだった父親の残した莫大な借金を返済している金融会社の元締めが清住会であるからだ。とは言ってもその情報は父が言っていたことで信憑性は低い。さらにそれが本当だとしても清住会の組員が一人殺されたところで悠太に残っている借金が消える訳ではないし、清住会がなくなる訳でもない。この事件が起きたところで悠太が過敏に反応するほどのことでもないのだ。 だがその無機質なニュースに、悠太は耳を澄まして聞き込んだ。もしかしたらいつも取り立てに来る連中が殺されたのではないかと身を案じていたのだ。しかしその後も名前が述べられることはなく、短いニュースは終わりを迎えた。  午後八時。小さな裸電球に明かりを灯し、悠太は着替えを始めた。食品加工会社の清掃職員として働き始めてから早二年。日中のコンビニでレジ打ちをしていた頃よりも月収は上がった。仕事を変えたのは悠太が借金を払うことになってからである。  父親は二年前に蒸発した。その日のことを悠太は鮮明に覚えている。
/397ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加