7/26

69人が本棚に入れています
本棚に追加
/397ページ
「お待たせしました。先にコーヒーね。あと、これはサービス」  テーブルにはコーヒーとココアが置かれた。狭間はココアを悠太の前に滑らせる。焦げ茶色の飲み物は悠太が初めて見るものだった。  白い湯気が立ち上る暖かいココアを悠太は恐る恐る口に運ぶ。すぐに口内へと優しい甘さが広がった。悠太の表情は自然と柔らかく変化する。 「もしかして初めて飲んだのか?」  悠太はマグカップを両手で持ちながら頷く。それも無理はない。悠太は給食以外にまともな食事を与えられてはいなかった。父の稼ぎも少なく、日頃よく口にしているのは色が変わった葉物野菜を炒めたものと少ない白飯だけであった。  昼に給食を食べたあと、その味気ない食事を口に運ぶのは悠太にとって苦しい時間だった。父と顔を向かいあわせて食べる夕食。父を目の前にして、その食事に手をつけずに食卓を離れることなど、悠太にはできなかった。
/397ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加