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「ああ、いいよいいよ。俺が食べるから」  悠太を制止した狭間は残ったオムライスを、オレンジ色のご飯粒が纏わり付いたスプーンを使って食べ始めた。久しぶりに食べる味だった。幼い頃はよく食べていた記憶がある。  大人に近づけば近づくほど、子供の頃よく食べていた料理を食べる機会がなくなっていく。それは成長に伴い、違う味を覚えていくからだと狭間は思っていた。金を持てばそれ以上に舌を唸らせる料理に出会う。仕事さえして、借金もなければまともな食事を日々口にできる。次第に幼少の頃食べていた料理に目を向けはしなくなる。 最近まで目を向けさえしなかったオムライスは美味しかった。素朴な味で飽きることもない。こんなに身近な料理の味を忘れかけていた。ただ美味しいという漠然とした感情のみで片付けてしまっていた。それを感じた時、人は成長に合わせて色々なものを見逃してしまうのではないかと狭間は気付いた。
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