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 借金に塗れている中で父は悠太に何とかして毎日食事を与えていた。量が少ない場合は自分が食べる分まで悠太に回した。そのため父は悠太がたまに食事を残すと、怒りを覚えずにはいられなかったのだ。  しかし狭間は違った。いかにも高価な食事を与えてくれたというのに残してしまった悠太を叱らず、反対に優しく褒めた。その胸がくすぐったくなるような感覚を悠太は初めて感じたのだった。 「おじさん、ありがとう」  悠太は手を繋ぎながら家路につく時そう伝えた。狭間は満足そうな笑みを浮かべていた。もう日は暮れて、辺りはネオンが煌びやかに街を彩っている。  アパートに着くと、悠太より先に狭間がドアを開けた。木でできた軽いドアは風を感じるほど強い勢いで開かれた。狭間が光沢のある革靴を脱ぎ、部屋の中に肩で風を切るようにして踏み込んでいく。
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