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 悠太がそっと部屋を覗き見ると、テレビから流れる無機質な笑い声の響く中で目を丸くしながら狭間を見上げている父の姿が見えた。 「どうも、こんばんは」  狭間は父を見下ろすようにして名刺を渡した。それを見て何かを察したのか、父はすぐに立ち上がった。 「ちょっと外行きましょうか」  狭間は呟くようにそう言って父の肩を優しく叩いた。悠太は先ほどまで感じることのなかった違和感を覚える。いつも口数の少ない厳格な姿の父が弱々しく小さい。まるで狭間を恐れているようだった。それはとても友達同士とは思えなかった。だが、狭間の顔には先ほどと同じように優しい笑顔が浮かんでいる。 「悠太くん、今日はありがとな。今度はちょっとお父さんとお話してくるよ」  狭間は父と同じように優しく悠太の肩を叩いた。夕方まで垣間見せていた笑顔がまた悠太の目の前に広がっていた。  狭間の後に続いて父が歩いていく。二人の微妙な距離感こそが心の距離を表しているようだった。
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