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「本当に申し訳なかった」
悠太は狭間の声を聞いた瞬間、我に帰った。すぐにベンチから立ち上がる。
「何してるんですか! 頭を上げて下さいよ」
悠太の大声に全く反応することなく狭間は頭を下げ続けた。しばらく悠太は黒々と光っている頭を黙って見続けることしかできなかった。
「もういいですよ。僕そんなこと気にしてませんから」
それでもまだ頭を上げない狭間を見かねた悠太は、そっと彼の肩に手を置いた。狭間はそれに気付き顔を上げる。全く表情は崩れておらず、視点は悠太をしっかりと捉えていた。
「こんなことしかできなくてすまん」
その言葉の奥には悠太に背負わせる可能性のある莫大な借金を自分の手ではどうにもできないのだ、という虚無感に似た感情が込められていた。何の非もなくあの家に生を受けただけの悠太に、これから父親の借金が重く肩に伸し掛かる現実を狭間は見通していた。
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