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 トレンチコートを羽織るだけでは厳しい季節になってきたと狭間は感じていた。雪は降っておらずとも皮膚を突き刺すような痛みは変わらない。  暖かい九州の土地で育った狭間にとって、その痛みに慣れることはこれから先もないように思えた。  今年はいつ雪が降るのだろう。雪が降ると狭間はいつも幼い子供の姿を思い出す。そして、頭の中からすぐにその姿をかき消すのだった。  皺皺になっている茶封筒はいつものように封が開けられていた。茶封筒の中に自分の財布から五万円を入れた。これで悠太の父が毎月返していた金額と同額になる。狭間は二年間続けているその作業を終えると、茶封筒を鰐革のクラッチバッグに入れた。  しばらく大通りを歩いた先の小道に黒塗りのセダンが止まっている。狭間はそのナンバーを確認すると、穏やかな足取りで車へ向かう。運転席から若衆の正田宗一(しょうだそういち)が焦ったように飛び出てきた。
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