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「ご苦労さんでした」
正田は怯えた顔で後席のドアを開ける。最近組に入ったばかりの正田の顔にはまだあどけなさが残っていた。背丈も小さく、声も高い。おまけに度胸もない。狭間が評価している点は運転の上手さだけだった。
「おう、時間は大丈夫か?」
正田は金色のギラついた腕時計で時刻を確認した。狭間はセンスのない時計だなと思いつつも、大した金をもらっていない若衆に対して口うるさく言うつもりはなかった。
「余裕はあります」
「ならいい。すぐ向かってくれ」
「では、向かいます」
ゆっくりと車が動き出す。スモークで黒く塗られたウインドウから曇天模様の空がモノクロ写真のように映し出されている。悠太もこんな色のない世界を永遠に漂い続けるのだろうか。そう思うと狭間の固く握られた手には自然と力が入り、震えるのだった。
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