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病室の廊下では若い衆が狭間の帰りを待っていた。若衆たちの挨拶を聞きもせずに、狭間は病室に駆け込んだ。そこには会長の清住健吾、舎弟の大島誠治、そして真島がベッドで眠っている川島の顔を眺めていた。周りに置かれている生命維持装置はもはや機能を果たしていない。
「叔父貴。おい、叔父貴」
狭間は掛けられた打ち覆いを外して、川島の顔を見た。深い皺の刻み込まれた顔は優しく微笑んでいるように見えた。その顔を見た瞬間、狭間は床へと崩れ落ちる。不意に握った手に温もりはなかった。
「犯人は見つかってないんですか?」
狭間の振り絞った声が悲しく病室に反響する。
「ああ、そのまま現場から逃げたようだ」
清住はそれだけを告げた後、病室を後にした。犯行は腕利きのヒットマンによるものだった。至近距離で急所を狙い、一発の銃弾を川島の体にぶち込んだ。即死だと聞いた時、狭間は裏稼業に精通している者の犯行に違いないと確信を持っていた。それであれば犯人はすぐに見つかるはずだと。
しかし、翌日になっても犯人の証拠は一切なく、近隣住民からの証言も有力なものはない。恐らく、サプレッサーが取り付けられていたのだろう。完全に音を消し去ることはできないが、効果はある。
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