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 父親の痩せ細った背中を思い出す。今日くらいは父親にいいものを食べさせよう。そう思い、閉店間際のスーパーで売れ残り、安くなっている幕の内弁当を二つ買う。  その弁当を帰りの道中で冷めないように電子レンジで温める。温めた弁当は容器が変形するほど熱くなり、ご飯の上に乗せられた海苔は小さくなっていた。それでも久しぶりに見る真面な食べ物は美味そうだった。悠太は自然と落ちる涎も気にせずに寒空の中を歩き出した。  雪は朝よりも大きな粒となり、せっかく余計に温めてきた弁当を白く染めていた。悠太は小走りで家へと向かった。父が腹をすかせて待っているはずの家に。  アパートに着くと鍵がかかっていた。父が家にいる際、鍵はかけない。悠太は一抹の不安を覚えながら、財布から合鍵を出し静かにドアノブを引いた。電気もついていない室内には滞留する冷気だけが蔓延っていた。父が朝、雪を眺めていた窓から月に反射した白い雪が穏やかな光を送る。人の気配はなかった。
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