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「遅くなりました」 「ああ、ご苦労さん」  清住には疲労の色が濃く現れていた。一昨年に大病を患ってから、清住は急に衰え始めた。見た目は周りの同年代と比べてもだいぶ上に見える。最近では足腰も弱くなり、威厳は失われかけていた。  いつ会長の座を狭間に渡すのか。それを気にしている組員も少なくはなかった。葬儀中も清住は杖に顎を乗せるようにして、僧侶の頭を虚ろな目で眺めていた。  葬儀は滞りなく進行した。川島の亡骸を組の所有しているワゴン車へ乗せる。人が本当に入っているのかを勘ぐりたくなるほど、棺は軽いものだった。霊柩車には清住と大石、そして狭間が乗った。ワゴン車の横では暴力団員が長い列を作って、深く頭を垂れている。  車内は静寂に包まれていた。一人一人の呼吸音だけが規則正しく聞こえている。狭間はその中で外の様子を伺っていた。いつどこから銃弾が飛んで来るかわからない。この車の重役たちを守るのは狭間しかいない。命を捨ててでも幹部勢を守り抜く。そう決意し、眼を必死に動かしていた。
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