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「いや、滅相もありません。喜んで、盃はいただきます。しかし会長は悔しく無いのですか? 自分の兄弟が殺されたっていうのに」
「儂がまだ天誅を下せるならば悔しさを覚えるだろうな。しかしそれはできない。今の儂は耄碌した爺と一緒だ」
清住は口を真一文字に結び、煙草を灰皿に擦り付けた。皺が刻み込まれている目尻から一筋の涙が流れる。そこには激しい怒りが、確かに滲んでいた。
自分の手で兄弟を殺した外道に裁きを下せない。手下の力を借りなければ何もできないことを清住は遥か前からわかっていた。会長という立場に座っているだけの統率力もない偶像。潮時を既に察していた。
「知らねえ間に死にかけてやがるんだよ、儂は。狭間、早く儂を隠居させてくれ」
清住は弱々しい言葉を吐いた後、杖を突きながらゆっくりと火葬場へ戻っていった。狭間が組に入った頃あれだけ大きく逞しかった背中は、どこにでもいる老人と変わらぬほど小さかった。
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