鉛の感情

５

　悠太は小さく会釈をした後、この場を立ち去ろうと羽織ってきたウインドブレーカーを手に持った時だった。正田の頭に拳が降りかかった。

「馬鹿野郎。堅気に因縁つけてんじゃねえよ」

　正田は頭を抱えながら膝を丸めて痛みに耐えていた。悠太はその姿が急に剽軽なものに見えて思わず笑いそうになる。

「悪いな、悠太くん。驚かせちまって。サジさんもすまねえ」

　狭間は悠太とサジに軽く頭を下げた。サジはとんでもないという風に手を顔の前でひらひらさせた後、悠太の席からカウンターへと戻っていった。

「あれ、カシラのお知り合いですか？」

　頭を抱えながら立ち上がった正田に狭間は突き刺すような視線を送った後、また頭を殴った。