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また店内には森の中にいるような静寂が訪れる。わかってはいたが、狭間が暴力団の一員であると聞いた時、悠太は身体中に妙な身震いを覚えていた。だが、狭間が死ぬことはない。狭間の近くには必ず手下が付いているのだから。
無理にそう思い込み、気を取り直して悠太がコーヒーを口に含もうとした時、サジがロールケーキを持って、悠太の席へ訪れた。
「よかったら食べてくれ。騒がせてしまったお詫びだよ」
「いや、そんなことないですよ。気にしないでください」
目の前に置かれたロールケーキを悠太はテーブルの端へと移動させた。しかしサジはまたロールケーキを悠太の前へと差し出す。
「いいから、いいから。食べておくれ」
引き下がらないサジを目の前にして、悠太は一揖する。
「なんか、すいません」
悠太はロールケーキに手をつけた。初めて見る食べ物だ。小さくフォークで切り分け、スポンジ生地を口に含むと柔らかい甘さが広がる。
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