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 後ろから気配を感じた女は徐々にスピードを上げ、店の外へ出ていった。悠太はカゴをその場に置いて、女の後を追う。駐車場を横切り、歩道に出たところで悠太はやっと女に追いついた。 「あの、商品盗みましたよね?」  女は悠太の言葉を振り切るようにして走り去ろうとする。 「それ僕が買いますから、お店に戻りましょう」  咄嗟に言葉が口をついて出ていた。自分と同じようにこの女も困窮した生活を強いられている。いや、自分よりももっと厳しい生活を送っているのかもしれない。  そう思うと、生まれた環境によって被害を受けている女にこれ以上の罪を負わせたくはなかった。 「お店の方ではないのですか?」  穏やかな口調が悠太の耳で涼しい音を立てていた。表情も白々しく、この女を見て、罪を犯したとは誰も思わないだろう。身の潔白を全身で訴えているようだった。
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