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「僕はただの買い物客です。お店側が動く前に早く戻りましょう」  悠太は走って息が整わない上に、生まれて初めて犯罪の場面に出くわしたため、動揺を隠しきれない。言葉は途切れ、震えていた。 「お気遣いありがとうございます。でもあなたには関係のないことですから」  女は軽く頭を下げてまた歩き出した。その肩を悠太はしっかりと掴む。 「簡単に犯罪を犯してはいけません。苦しくても誰か差し伸べてくれる人は必ずいますから」  少しばかり女の肩が震えた。ついに自分の犯した罪を理解して、怯え始めたのだろう。そう感じた悠太は優しく店内に引き戻そうと彼女に歩み寄る。  しかし振り返った女の顔は悠太の想像と違っていた。その顔にはやはり動揺の色はなく、屈託のない笑顔が浮かんでいたのだ。
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