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「お疲れ様です。寒いですね」
「端場さんそんな格好で寒くないの?」
悠太の格好は清掃の時に使用する作業服の上に、中学生の頃着ていた薄手のウインドブレーカーを羽織っただけという簡素なものだった。
「意外と寒くはないですよ」
「そう。若いっていいわよねえ。私なんかもう寒いと中にも外にも着込まなきゃいけないのよ。年は取りたくないね」
陽子は噛み砕いた煎餅を口から飛ばして、下品に笑った。そして菓子器から色の濃い煎餅を取り出した。
「端場さんもどう?」
悠太は顔の前で小さく手を左右に振った。陽子は寂しそうにしながらも、その煎餅を自分のバッグの中へと忍び込ませた。
「僕、先に行きますね」
ウインドブレーカーを錆び付いたロッカーの中に投げ込み、悠太は休憩室を後にした。
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