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 女の盗んだものは袋ラーメン一つだけではなかった。その下からはペットボトルの飲み物が一つ、スナック菓子が二つ、缶詰が三つ、顔を出した。重たそうな鞄の理由を知った悠太は思わずため息をつく。結局会計を済ませた悠太の財布の小銭入れには十六円しか残っておらず、硬貨が寂しくこちらを見つめていた。 「もうこれからは万引きしないでくださいね」  ぎこちない笑顔を浮かべながら発した悠太の問いかけに、女は深く頭を下げた。道路を走る車のライトがその姿を照らしていく。横に広がっている伸びっぱなしの黒髪が異様な雰囲気を帯びて、揺れていた。 「恐れ入りますが、もう一つだけお願いをしてもいいでしょうか?」  頭を下げたまま、アスファルトに向かって女は言った。悠太はもうこの場を離れてしまいたい一心だった。
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