鉛の感情

７

　金のない女に同情したためにつけ込まれてしまうかもしれない。そんな未来を危惧していた。一瞬の迷い。そして決断。その寸分のミスが今後の人生を左右する可能性があると。

　しかし、この場から全速力で走って逃げるほどの度胸はなかった。仮に彼女が悠太の住むアパートの近隣住民であれば、また顔を合わせてしまう可能性もある。叶えられるかどうかは別として、この願いを聞きもせずに逃げた方が不利な状況に傾くと悟った。

「叶えられるかはわかりませんが」

「あなたのお宅に私を連れていってはくれませんか？」

　瞳はまっすぐに悠太を捉えていた。その真剣な眼差しが言葉に力を与えている。悠太は想像の範疇を超える問いかけに唖然としていた。

　願いは叶えられないものではない。しかしこの不気味な女が悠太の家を知れば、何をしでかすか分からないという怖さがあった。その恐怖が徐々に悠太の心臓を力強く掴み始めていた。