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「ここ、ですか?」  いつの間にか女が隣に立っている。思わず悠太は仰け反った。腕には鳥肌が隙間なく犇いていた。 「そうです。僕はホームレスなんです。ここの公衆トイレは作りが頑丈で寒さも凌げるので、重宝しているんですよ」  精一杯の笑顔で悠太は対応したつもりだった。日中であれば口角が小刻みに震えている事実を指摘されただろう。  女は悠太の不器用な笑みを目線に入れもせず、何もない公園の広場を遠い目で眺めていた。その視点がどこを捉えているのか、悠太には把握できなかった。 「早く、家に連れていってください」 「いや、だから僕の家はここですよ」  悠太が肩をすくめた瞬間、女は鞄を漁り始めた。そこから黒いものが顔を出した。それは公園の電灯に照らされ、一瞬だけ姿を見せる。悠太は声にならない悲鳴をあげ、腰を抜かした。
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