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「連れていってください」  女が悠太に向けたものは拳銃だった。銃口からは果てない漆黒の闇が見える。  悠太は力の入らない体を必死に腕だけで引きずった。悠太の絶望に満ちた表情を見ても女は動揺せず、両手でしっかりとグリップだけを握りしめている。  その指はまだ引き金にかかっていない。打つ気はない、ただの脅しだ。そうわかっていても腑抜けた腰は簡単に体を起こしてはくれなかった。  悠太が土の上を這うようにして動いていると、女は引き金に右手の人差指をかけた。そして瞼に思い切り力を入れて、目を閉じた。 「わ、わかりました。それ、それを早く下げてください」  悠太は歯をガタガタと鳴らしながら、解れていく言葉を何とか繋いだ。銃口はまだ悠太の顔を捉えている。目の前に広がる小さな闇が不穏に揺れた。
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