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 そこからしばらくの時間、沈黙が続いた。女はあからさまに首を動かしながら、辺りを見回している。部屋の隅々まで入念に観察しているようだった。 「先ほどは取り乱してすみませんでした」  女はいきなりそう言って頭を下げた。あれほど冷静に振舞っていたのだから取り乱してなどいないだろうと悠太は心の中で毒づく。 「あれ、拳銃ではなくて、モデルガンという偽物です。護身用にいつも持っていて。驚かせてしまって、申し訳ありませんでした」  女の言葉を聞いた瞬間、背中に迸っていた力が抜け、悠太は雪崩れるようにして横に手をついた。恐怖を抱いている中で拳銃の形をしたものを構えられても、それをモデルガンと素直に認識することはできなかった。それにモデルガンが一体何であるかを悠太は知らなかった。  しかし冷静になって考えれば、こんなに貧乏そうで幸の薄い女が拳銃を所有している可能性などほぼ無いに等しい。ここはアメリカではない。間違いなく日本である。銃を持っていれば必ず検挙されるのだ。
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