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「そうですよね。そうですよね」
悠太は込み上げてくる力無い笑いを抑えられなかった。万引きをした犯人を助けたというのに銃を突きつけられて脅される。そんなドラマのような展開の後にそれがまやかしだったと伝えられれば、怒りを通り越し、笑みが溢れる。悠太は腑に落ちない複雑な安堵を覚えていた。
「私を少しばかりこの家に置いてくれませんか?」
「ええ、いいですよ」
解脱した笑顔で悠太は即座に答えた。もう反抗する力がなかった。いくらモデルガンとわかっていても女の望みを聞かずに再度脅迫されるのは御免だ。生まれて初めて感じた恐怖を、またこの素性の知れぬ女から味わいたくはない。
例え彼女の望みを聞いて、この家に住まわせたとしても、悠太がこの女を養えはしない。自分にも金がない現実を知れば勝手に出ていってくれるだろう。悠太はそんな淡い期待だけを心の拠り所にしていた。
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