9/18
前へ
/397ページ
次へ
 目が覚めた時、リサは台所に立っていた。何年も使わずにいた、黒ずんだ木のまな板の上にはサイコロ状にカットされた豚肉があった。 「それ、どうしたんですか?」  目を擦りながら悠太はリサに問う。 「あ、おはようございます。近所のスーパーで買ってきたんです」  鍋に火をかけて、その豚肉が音を立てて炒められる。香ばしい匂いが悠太の鼻をくすぐった。  しかし悠太は疑問に思う。一体その食材をどうやって調達してきたかという点だ。奥に追いやられているテーブルの上には真っ白な長財布が置いてあった。悠太はリサが料理に集中している隙を見計らい、静かに財布へと手を伸ばす。  側から見ただけでも相当な厚みである。息を飲み、財布を開けるとその中には分厚い札束が入っていた。悠太は唖然とした。そして、自分が行ってきた善意を否定された気がした。
/397ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加